歴代教え子列伝2 壮絶なトップ争い
いつの時代も塾の広告塔は優秀な生徒と、優秀になった生徒、H君はその両方を兼ね備えた生徒になった。というのも3年次のH君の成績はオール5だったからだ。個別指導で色んな生徒を見てきたけれども、後にも先にも、オール5などという成績を目の当たりにしたのは、このH君だけだったと思う。1年から塾に在籍していた彼はもともと優秀で力はあったと思うが、初めからここまで優秀だったわけではない、講習会などを上手く活用し、5教科全てを満遍なく伸ばした、塾の理想を体現したような生徒だった。そのためA君は最後まで、H君の成績を超えられなかった。英語も、数学もいつも紙一重と思える僅差なのだが、唯一差があったしたら『国語』だろう。この国語の力というのが、あるかないかで、成績の伸びというものは変わってくる。面接の当事者ではないからよくは分からないが、A君の保護者はおそらく国語を軽視していたんじゃないだろうか。個別指導の花形は英数…そう思い国語を軽視している保護者は今でも多い。だが、国語も積み重ねが必要な教科だとつくづく思う。講習だけの短期間では、てもじゃないが、H君に追いつくことはできなかった。
その後、H君は前期推薦で、A君は後期入試でどちらも所沢北高校に合格した。つくづく、もったいないと思うのはもし、あの頃推薦入試というものがなく、一般試験の入試のみだとしたら、H君はどれだけのスコアを叩きだしていただろうか。A君は最後まで努力を続け、北高のボーダーラインを突破した。おそらく、北高に入学してからも、熾烈な争いが続いたのだと思われる。
今年の受験生には、お互いの志望校は違うけれども、そんな2人を彷彿とさせる生徒がいる。努力の申し子と言えるようなS君と、天才肌といえるようなT君。定期テストのS君のテストの答案は、どんな教科も全て字で埋め尽くされている、絶対に1点でも多くとってやるという執念。こんな子を教えることができるなんて、光栄なことだ。俺が担当する以前に目がいったのは、指示語の抜き出しができていないことから国語の履修を進めた。もともと用意周到な彼は、俺のアドバイスを忠実に実行し、定期テストで450点の壁を突破した。しかし、その一方で北辰のような実力テストで点を取れずに苦しんでいる。一方のT君は1年生の頃、スパルタのような集団塾に通い、嫌気がさし、途中で個別指導に転塾した経緯を持っている。その貯金なのかはわからないが、北辰のような実力テストでは得意教科においては、偏差値70に達するレベル。しかし、面倒くさがりなのか、内申を取ることは半ば諦めているような姿勢が時折垣間見える。まあ、確かに1500個の英文を書きとれなんて、面倒くさがりやな彼にはそうとうにしんどい課題だろうし、気持ちは分からないまでもないが。この春から英語を持つことになった。埼玉の入試は、内申より実力重視の試験になったと、それをまず伝えないといけない。
去年は、あまり興味がなかった北辰の結果。ただ、今年はこの2人がどれだけハイレベルな争いを繰り広げてくれるのか、そういったところにも注目しておきたい。顔すら合わせることのなかったH君とA君だが、今回は直接顔を合わせて、ライバル意識をあえて煽ってやろうかと思っている。男の子には負けたくないっていう心理があるものだから、それを上手に利用して2人にはより上を目指してもらいたい。